造影剤の流れる順番が分かれば、造影CTの「相」は暗記しなくていい
◎ 造影剤の流れる順番が分かれば、造影CTの「相」は暗記しなくていい
「動脈相って、注入から何秒でしたっけ?」 ……実習生から毎年のように聞かれる言葉です。
答えるのは簡単です。でも、その秒数はたぶん来週には忘れられています。秒数から覚えようとするから忘れるのです。造影剤が体の中をどの順番で流れるか。そこさえ分かっていれば、相の名前も秒数も、あとから勝手についてきます。今日は、学生さんにこれだけは分かっていてほしい、という話です。
1. つまずく理由は、秒数ではなく解剖
学生さんが造影CTでつまずく理由は、はっきりしています。
解剖が頭に入っていないのです。どの血管がどこにつながっていて、血液がどちらへ流れているのか。その地図がないまま「動脈相は○秒」と覚えても、意味のない数字の羅列になります。
逆に言えば、地図さえあれば難しいことは何もありません。
2. 腕から入った造影剤がたどる道
右腕の肘から入れた場合、造影剤はこう流れます。
- 腕の静脈 → 鎖骨下静脈 → 腕頭静脈 → 上大静脈
- 右心房 → 右心室
- 肺動脈 → 肺 → 肺静脈
- 左心房 → 左心室
- 大動脈 → 全身の動脈 → 各臓器
- 静脈を通って、また心臓へ
ここで一番大事なのは、全身に行く前に必ず一度、肺を通るということです。静脈に入れたものが、いきなり大動脈に行くことはありません。
「一周目は肺」。これが造影CTの地図の出発点です。
3. 相の名前は「今どこにいるか」の名前
この順番が分かると、造影CTの相の名前が、ただの居場所の名前だと分かります。
- 肺動脈相:造影剤が右心から肺動脈を流れているところ。肺塞栓を見るならここ
- 動脈相:肺を抜けて、大動脈から全身の動脈に流れているところ
- 平衡相:全身をひと回りして、血管の中と外が落ち着いたところ
時間の目安は、注入開始からおおむね、動脈相が30〜40秒前後、平衡相が3分前後です。私がダイナミックでよく使うのも、注入開始から35秒前後。
ただ、この数字は目安でしかありません。順番は変わらないけれど、到着時刻は人によって変わる。 ここを押さえておけば、数字に振り回されなくなります。
4. 順番が崩れるとき
教科書どおりにいかない場面もあります。現場では、むしろこちらの方がよく出会います。
① 心機能が悪いと、全部が遅れる
心臓のポンプが弱っている人では、造影剤の到着がまるごと遅れます。ボーラストラッキングで大動脈にROIを置いて待っていても、なかなか閾値に届かない。珍しくない場面です。
順番は同じで、時刻だけが後ろにずれる。秒数を暗記しているだけだと、ここで固まります。
② 肝静脈に逆流する
これもよく見ます。動脈相なのに、肝静脈や下大静脈が白く染まっている画像です。
本来の順番なら、造影剤は右心房から右心室へ進みます。ところが右心系に負担がかかっている人では、右心房に入った造影剤の一部が、下大静脈から肝静脈へ押し戻されてしまう。注入速度が速いと起こりやすい面もありますが、べったり逆流しているときは、右心系に何かあるかもしれない、という画像からの合図です。
順番を知っていれば、「この時相でここが白いのはおかしい」と気づけます。
③ 左腕から入れると、道のりが長い
左腕から入れた造影剤は、左の腕頭静脈を通り、大動脈弓から出る血管の前を横切ってから上大静脈に入ります。右腕より道のりが長く、濃い造影剤が静脈に残ってアーチファクトの原因にもなります。このあたりは以前の記事「左腕から造影剤を入れたら、こうなった」で詳しく書きました。
相の名前は、造影剤が今どこにいるかの名前にすぎない。順番を覚えれば、秒数はあとからついてくる。
……なんて偉そうに書きましたが、毎年「右腕から入って、心臓に行って、肺に行って、戻ってきて、全身を回って、また心臓」とジェスチャー付きで説明して、毎年きれいに忘れられています(笑)。 明日もまた、手を振り回しながら、一周目は肺だと言い続けます。


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