インジェクタが動かなくなった救急のダイナミック、手で押して撮れた理由

 

◎ インジェクタが動かなくなった救急のダイナミック、手で押して撮れた理由

「えっ、手で入れるんですか……?」 ……救急のCT室で、若手にそう言われたことがあります。

あの時の顔は、今でも覚えています。何か危険なことが始まると思ったのでしょう。彼にとって造影剤とは、機械が入れるものだった。私が造影剤シリンジを両手で掴んだ瞬間、完全に固まっていました。今日は、その日の話をします。




1. その日、インジェクタが動かなかった

救急からダイナミックの依頼が来ました。急ぐ検査です。

患者さんを寝かせ、ルートを確認し、さあというところでインジェクタが動かない。ボタンを押しても反応しない。こういうものは、たいてい一番まずいタイミングで壊れます。

ルートはすでに取れている。造影剤もつながっている。撮れない理由は、機械が動かないことだけ。


2. 待つ、という選択肢はなかった

まずここを考えます。待てるのか、待てないのか。

予約の検査なら、別室に移すなり、機械を見てもらうなり、いくらでも手はあります。しかし救急です。大動脈解離疑い。この画像を待っている人が、すぐ隣にいる。

待たない、と決めました。

決めたというより、迷う時間がなかったというのが正直なところです。ただ、迷わなかったのは、代わりの手段を持っていたからでもあります。持っていなければ、迷うどころか、待つしかなかった。


3. 秒3を、手で作る

イオパミロン300の100mLシリンジ。留置針は22G。普段なら秒3mLで入れている検査です。

やることは単純で、100mLを30秒で押し切ればいい。頭の中で数を数えながら、一定の速さになるように押していきます。

念のため書いておくと、これは指先で押せるような圧ではありません。22Gに秒3mLで流すとなると、押子にかかる力は70kg相当。両手で、体重を乗せるようにして押します。腕力というより、姿勢の話です。

そして一定に押し続けること。速くなっても遅くなってもいけない。数を数える声と、腕にかかる抵抗の感触だけが頼りです。


4. 35秒後に撮る

撮影のタイミングは、いつも通りの35秒にしました。何も変えていません。

変える必要がないからです。ディレイは注入開始からの秒数で設定しています。注入にかかる時間が普段と同じ30秒なら、造影剤が体内をめぐる過程も同じ。35秒後に撮れば、普段と同じ相が撮れる。

裏を返せば、手押しで注入時間がずれていたら、この数字は使えませんでした。30秒を守ることには、そういう意味もあったわけです。

そして、ここが手押しの代償でもあります。

注入が終わるのが30秒、撮影が35秒。5秒では操作室に戻れません。私はプロテクターを着たまま、室内に残って撮影を受けました。当然、被曝しています。

インジェクタという機械は、造影剤を入れるためだけのものではありません。人を部屋から出すための機械でもある。普段それを意識しないのは、意識しなくていいように出来ているからです。手で押すというのは、その機能ごと人間が引き受けるということでした。


5. いつも通りの画像だった

撮れた画像は、いつも通りでした。

見比べても、手で押したとは分からない。機械がなければ成立しないと思われていた検査が、数を数えるだけで成立してしまった。

ここで、冒頭の若手の話に戻ります。

彼が固まったのは、手で押すという行為が危険に見えたからでしょう。しかし実際には、手のほうが安全な面すらあります。抵抗を感じれば緩められる。ルートがおかしければ、指が先に気づく。インジェクタは何も感じないまま、設定した圧まで押し切ります。

彼が本当に驚いていたのは、たぶん別のことです。インジェクタの代わりが人間に務まると思っていなかった。

秒3も、35秒も、機械の中で起きていることです。それを言葉にできていれば、手で再現できる。できないのは、機械が何をしているかを考えたことがないからです。

なお、この手の話を医師に報告した覚えはありません。造影剤を何で押すかは、我々技師の領分です。指示されたものを、指示された通りに入れた。それだけのことですから。

機械が何をしているか分かっていれば、機械が止まっても検査は止まらない。

ただし、止めずに済ませた分の代償は、どこかで誰かが払っています。この日は私が浴びました。誇る話ではありません。次に同じことが起きたとき、本当に待てないのかどうかは、もう一度考えるべきところです。


……なんて偉そうに書きましたが、もう一度やれと言われたら、正直ちょっと遠慮したいです(笑)。 明日もまた、機械の中で何が起きているのかを考えながら、検査室に向き合います。

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