改善するたびに仕事が増える理由、足すもの・削るもの
◎ 「改善」するたびに仕事が増える|足すのは簡単、削るのは難しい
「また点検項目が増えたんですか……」 ……現場でよく聞く言葉です。
先日、職場の「改善」について語る動画を見ていたら、コメント欄にこんな書き込みがありました。「海外では手順を削ることが改善。日本は手順を足そうとする」。本当に国の違いなのかは分かりません。でも、妙に納得してしまいました。私たちの現場でも、改善と呼ばれるものの多くは、何かを足す話だからです。
1. 改善はなぜ「足す」方向にいくのか
何か問題が起きたとき、一番簡単な対策は、確認を一つ増やすことです。チェック欄を一行足せば、対策した形が残ります。
逆に、何かをやめるのは勇気がいります。やめたあとで何か起きれば、言い出した人の責任になるからです。
足すのは簡単で、削るのは難しい。 だから一つひとつは小さな「改善」が、何年もかけて積み重なっていきます。
2. 現場で増えていくもの
① 機器の点検と精度管理
新しい装置が入れば、その分の点検項目が足されます。ところが、古い装置の頃に作った項目は、なかなか消えません。点検表は、年々長くなる一方です。
② 撮影する画像・再構成する画像の種類
「この断面もあった方がいい」「この再構成画像も付けよう」。一つ足すだけなら、大した手間には見えません。
でも、その一つは毎日の全件にかかります。処理の時間が増え、保存する容量が増え、読影する医師が確認する画像も増えます。
③ 学会で良いとされる取り組み
学会で推奨されたことを取り入れるのは、良いことです。医療職として正しい姿勢でもあります。
学会から帰ってきて、「うちでもやりましょう」と熱心に持ち帰ってくる人もいます。言っていることは正しいし、本人は良かれと思っている。だから余計に、反対しにくい。言い出した人の立場が上であるほど、足す提案は通りやすく、削る提案は通りにくくなります。
ただ、熱心さが悪いわけではありません。学会は「これをやるといい」は教えてくれても、「代わりに何をやめるか」までは教えてくれない。足す話しか入ってこない仕組みの中では、真面目な人ほど足す側に回ります。そして増えた分を毎日回すのは、提案した本人ではなく、その日の担当者だったりする。
人も時間も増えないまま、仕事だけが増えていく。
良いことを足すたびに、現場の余裕は確実に削られていく。そして、それを埋め合わせる仕組みはどこにもない。
3. 点数がつかない仕事
埋め合わせる仕組みがない理由は、はっきりしています。足した仕事の多くに、診療報酬の点数がつかないからです。
① 画像を足しても、撮影料は変わらない
CTの撮影料は「一連につき」いくら、と決まっています。点数表には「スライスの数、疾患の種類等にかかわらず、所定点数のみにより算定する」と書かれています。MRIも同じ考え方です。
つまり、再構成画像を一種類足しても、撮影料は一円も増えません。三次元画像の処理でさえ、それ自体に点数があるわけではなく、冠動脈CTの加算を取るための「条件」として扱われているだけです。
足した画像は、収入を増やさない。増えるのは、手間と保存容量だけです。
② 点検は「条件」にはなるが、点数にはならない
装置の点検や精度管理は、安全のために欠かせません。でも、点検したこと自体に点数はつきません。
まったく無関係というわけでもありません。高性能なCTやMRIの撮影料を算定するには、安全管理の責任者を置き、装置の保守管理の計画を出すことが求められます。画像診断の管理に関する加算の一部でも、学会の指針に沿った安全管理や被ばく線量の管理が要件になっています。
ただ、それはあくまで「点数をもらうための条件」です。やればやるほど点数が増える仕事ではありません。しかも条件は、満たし続ける限り終わりません。
③ 点数化されていない推奨は、やるほど持ち出し
学会が推奨する取り組みでも、点数化されていなければ、収入はまったく増えません。手間と時間だけがかかる。やればやるほど、持ち出しになります。
④ 点数がつかなければ、人も予算も増えにくい
病院の収入は、基本的に診療報酬です。点数のつかない仕事がいくら増えても、収入は増えない。収入が増えなければ、人員も予算も増やしにくい。
結果として残るのは、同じ人数で、増えた仕事を回す現場です。現場の言葉で言えば、仕事だけ増えて、ジエンドです。
4. 「削る改善」という考え方
では、どうすればいいのか。
改善の基本は、「やめる・まとめる・入れ替える・簡単にする」の順番で考えることだと言われます。最初に問うべきは、「何を足すか」ではなく「やめられないか」です。
① 始めた理由を残しておく
点検項目でも、撮影する画像でも、なぜ始めたのかを一行でいいので残しておきます。理由が分かっていれば、その理由がなくなったときに、やめる判断ができます。理由の分からない項目は、怖くて誰も消せません。
② 足すなら、一つ削る
何かを足すときは、代わりに一つ削れないかを考える。それを決まりにしてしまえば、仕事の総量は増えません。
新しい取り組みを提案されたら、「いいですね。じゃあ、代わりに何をやめましょうか」と聞いてみる。反対しているわけではないので、角も立ちにくい。提案する側も、自分の提案でどこの仕事が増えるのかを考えるようになります。
③ 定期的に棚卸しをする
一年に一度でもいいので、今やっていることを全部並べて見直します。削る話は、何か起きた直後より、平時の方がずっと冷静にできます。
5. 最後に
改善と聞くと、何かを新しく始めることを思い浮かべがちです。でも、現場を本当に楽にするのは、たいてい何かをやめることの方です。
本当の改善は、足すことではなく削ることから始まる。
……なんて偉そうに書きましたが、今日も点検表のチェック欄はひとつ増えていました(笑)。 明日もまた、黙って埋めていきます。



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