救急のMRI、チェックリストを通っても最後にポケットを触る理由
◎ 救急のMRI、チェックリストを通っても最後にポケットを触る理由
「チェックリスト、全部確認済みです。お願いします」
……救急外来からMRIに患者さんが運ばれてくるとき、よく聞く言葉です。
チェックリストはありがたいものです。ペースメーカー、体内の金属、手術歴、身につけている物。聞くべきことが全部並んでいて、上から順に埋めれば漏れが減ります。
それでも私は、検査室に入る直前に、もう一回だけ患者さんのポケットを触ります。先日も、それで助かりました。
1. 救急ほど、チェックが形だけになりやすい
外来の予約検査なら、患者さんは前もって説明を受けています。着替えもすませて、時間に余裕があります。
救急は違います。
① 患者さん本人に余裕がない
めまい、吐き気、痛み。自分のポケットに何が入っているかなんて、考えられる状態ではありません。「金属は持っていませんか?」と聞かれて「ないです」と答えても、本当に確かめて言っているとは限りません。
② 確認する側も急いでいる
救急のナースは、ほかにも患者さんを抱えています。チェックリストを持って一項目ずつ聞いてくれますが、聞いた答えをそのまま記入するしかありません。
③ 受け取る側は「済み」を信じたくなる
一番危ないのは、ここだと思っています。チェック済みの用紙を受け取ると、こちらも安心してしまう。急いでいるときほど、その安心にのっかりたくなります。
2. ズボンのポケットに、車の電子キーが入っていた
先日の救急の患者さんも、めまいでMRIの依頼でした。
救急ナースがチェックリストに沿って確認してくれていて、用紙にはすべて「なし」と書いてありました。それでも入室前にもう一回だけ、ズボンのポケットの上から触ってみました。
固いものがありました。車の電子キーです。
本人も入っていることを忘れていました。めまいで気分が悪いなか、車で来てそのまま救急を受診したのでしょう。キーのことなんて頭になくて当然です。
電子キーは電子機器なので、MRIの中に持ち込めば壊れるおそれがあります。部品によっては磁石に引き寄せられることもあります。気づいてよかった、というのが正直なところです。
3. 人は当てにならない。自分も含めて
これは誰かを責める話ではありません。患者さんは忘れるし、ナースは聞いた答えを書くしかないし、技師は用紙を見て安心したくなる。全員まじめにやっていても、抜けるときは抜けます。
チェックリストは「聞いた」という記録であって、「ない」という証明ではない。だから最後の一回は、自分の手で確かめる。
4. 医療安全情報でも、同じことが言われている
2026年10月に、日本医療機能評価機構が「医療安全情報No.239 患者の体内に植込まれた医療機器等の不十分な確認(第2報)」を公表しました。MRI検査の前に、体内の植込み機器を確認しきれなかった事例が、2018年から2026年8月までに8件報告されています。
載っていた事例は、たとえばこんなものです。
- 患者さんが持参した問診票にペースメーカーのことが書いてあったのに、見落とされた。
- 医師はカルテでティッシュ・エキスパンダーが入っていることを知っていたが、MRI禁忌の製品だと知らず、技師にも伝わらなかった。
どちらも、情報がどこかにはあったのに、検査室までは届かなかった事例です。事例が起きた医療機関の取り組みとして、技師が患者さんと一緒にチェックリストで確認する、ということも挙げられていました。
ポケットの中身と体内の機器では、話の重さが違います。それでも、用紙の上で「済み」になっていることと、実際に確かめたことは別物だという点は同じです。
5. 最後の一回は、技師の仕事
新人の頃、先輩に「入る前にもう一回触れ」と言われました。そのときは、チェックリストがあるのに何で?と思っていました。今なら分かります。磁場のある部屋の扉の前に立つのは技師で、最後に確かめられるのも技師だからです。
触ってみて何もなければ、それでいい。何十回に一回、何か出てくる。その一回のためにやっています。
ポケットを触るのが癖になりすぎて、たまに自分の白衣のポケットまで触ってしまいます(笑)。 明日もまた、扉の前でもう一回だけ触ります。



コメント
コメントを投稿